幼児教育史研究の新地平〈下巻〉―幼児教育の現代史―
- 著者
- 幼児教育史学会 監修 小玉亮子・一見真理子 編
- 版型・頁
- A5判上製 392頁(2022/10/26)
- ISBN
- 978-4-89347-383-7
- 価格
- 3,740 円(税込)
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概要
幼児教育の変革期に未来を拓く視座としての一冊。下巻は、戦争・冷戦・グローバル化と展開する現代、変化を迫られる幼児教育について、多角的な視点から描きだす。
企画の内容が公表されてから丸3年の年月が流れ、その間に人類社会は、グローバル化はもとより、気候変動による自然災害の激甚化、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと、それにともなう社会の分断、さらなる地域紛争や世界の防衛体制を揺るがす侵略戦争の膠着状況、そして危機の時代にこその科学技術開発が進むなかで、地球環境全体の持続可能性を問うことなしに、次世代をもはや育てられない状況が続く時代になっている。
「幼児教育史の現代史」では、何よりもまず、20世紀以降の戦争・冷戦・多極化の時代をふり返り、時代背景との連関性やナショナルな幼児教育の展開のみならず、グローバルかつトランスナショナルな視点からも足元の幼児教育を問うている。つまり研究者一人ひとりが、これまでの研究対象と方法をグローバルに見直し、共有することが必要だ、という初発の動機にもとづいている。それが、果たしていかに実現できたか、下巻もまた会員諸氏、そして幅広い読者各位との対話という協働作業が、これから始まることになる。
子どもと大人の関係性がある限り、「新地平」は、いくえにも見直し、拓いていく必要があるが、誰もが知るとおり、人類は地球環境とそこに息づくほかの生命体の生存を危機に瀕さしめてきた。それを「人新世(ひとしんせい)」の到来とする所論も登場し、議論をよんでいる。また、人類の歴史は、人生のごく初期の育ちと学びをとおってのちに実現することへの理解も、政治的な立場や幼児期からのリターンを求めるか/求めないかの立場を超えて、現在では共有されている。そのような目でみると、本書に寄せられた貴重な論考がはからずも、無言のまま、あるいは静かに先人の足跡や検証可能な資料に即して伝えているのは、幼児期の公平性・権利への希求であり、これから先を生きる幼い人びとの声をもっとよく聴き、ともに世界をよりよく舵取りする勇気と力を出し合おう、終わりのない探究をしつづける関係性を育てよう、といった内なる声ではないだろうか。
(本書「はじめに」より一部を抜粋)
主要目次
第1部 戦争と復興の時代の幼児教育
第1章 20世紀初頭のドイツにおける幼児教育の展開─ペスタロッチ・フレーベルハウスに焦点をあてて─
第2章 「保育問題研究会」による「国民保育施設」構想─その〈論理〉と〈倫理〉─
Column 戦時翼賛体制と保育関係者
Column 植民地朝鮮のオリニ運動と乳幼児愛護運動
第3章 戦後幼稚園の復興─幼稚園の基準化─
第4章 保育所の対象・目的を規定した「保育に欠ける」をめぐる解釈の変遷
Column 1940年代前後のフランスとフレネ教育運動
Column 1930~40年代前後のアメリカ合衆国連邦教育局における幼児教育の位置づけ
第2部 科学と交錯する子育て・幼児教育
第5章 1950年前後における育児の科学化の諸相─発育を量る・発達を測る・母の愛を図る─
第6章 「教育の現代化」における「科学遊び」の特徴と意味─1960~70年代の雑誌『幼児と保育』に掲載された記事の検討を中心に─
Column 乾孝の「児童心理学」
Column 乳児の保育所づくりからケア・教育の向上へ―「子育ての共同化」と「公教育としての保育」の創造―
Column モンテッソーリ・リバイバルと早期知的教育の拡大―アメリカ合衆国からの拡大―
第7章 障害児保育と「保育の科学化」
第8章 ローリス・マラグッツィの思想と乳幼児の学びへの挑戦─レッジョ・エミリアの保育─
Column 幼児期の学びにおける貧困との戦い―ヘッド・スタート計画の構想と評価―
Column プラウデン報告のインパクト
第3部 グローバル化と保育
第9章 子どもの権利条約と幼児教育・保育─乳幼児の「意見表明権」と「参加する権利」─
Column スウェーデンの保育から学ぶもの
第10章 体制転換後のロシア、ベラルーシ、カザフスタンの社会と保育
第11章 トランスナショナル・ドキュメンテーション─レッジョ・エミリア市の幼児教育の記録の歴史─
Column アメリカの保育の専門職化と質評価
Column 保育所の窓からグローバル化の進展を考える
第12章 幼児教育のグローバルな動向─EFA・ESDからSDGsへ─
索引
幼児教育史学会15周年記念出版について(要旨)
執筆者紹介