幼児教育知の探究2 教育臨床への挑戦

著者
青木久子 著
版型・頁
A5判 275頁 上製 (2007/04/25)
ISBN
978-4-89347-102-4
価格
2,750 円(税込)
数 量

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概要

本書を「教育臨床への挑戦」とした動機は、一つはきっかけとなった「教育臨床学」の存在である。1988年に京都大学に「教育臨床学」と称する講座が開設されて、学校が抱える問題の深部に迫る知を構築しようとする契機が提供され、ふたたび幼年期の教育は何を原理として人間の教育を行うのかに意識を向けることができたのである。もう一つは本来、教育学は場所(トポス)に働く関係の現象を学問として構築する学で、あえて教育臨床学と言わなければならない時代とは何だろうという問題意識である。
そこで、幼年期教育における教育史を、臨床的視点から構築してきた人々の歩みの過程を整理することによって、教育実践現場の臨床性がいつ頃から変質したのか、そもそも教育学は臨床性と遊離した学問だったのかがとらえられるのではないかと考える。

本書の全体は3部構成で、第1部は、幼稚園教育の祖といわれるフレーベルの『人間の教育』『自伝』等から、彼が教育学を構築し実践によって確かめる過程での様々な問いや逡巡する思いを読み解きながら、原理の根元に迫る。
また、日本の幼年期教育にこれらの思想性がどのように拡がり定着してきたのか、幼稚園教育の臨床家たちがどのように自らの論理として学問知と実践知を融合してきたのかを探る。さらに、世界と交流する思想の可能性と限界をとらえている。
第2部では、教育理念の姿形に現す場所・空間・時間という外的作用に視点を当てる。
アフォーダンス理論は、人間が生命活動を行う身体システムと環境との相互作用を論理づけるもので、教育という社会的営為も大きな宇宙(コスモス)の中の一活動形態でしかないということを認識させてくれる。教育は、施設に具現化された姿形を通して現実の生活をつくり、見えない精神を生活に表現する。それは場所における経験と時間・空間と深く関係する問題で、教育における陶冶の問題でもある。先人が、記憶と経験を織りなす教育の内容を構造化した中にも、原理につながる思想があることに触れる。
第3部は、自らを教育する我、自己という主体に視点を当てる。道徳の完成をめざすのは、自由な我であり自己認識であるとするシェリングの論理を基礎に、自我の社会性を考える。また、現実の世界、つまり臨床知の働く世界で生み出されていく“意味”が発達の実質となっていくことを踏まえて、意味の普遍性をつくりだす共同意識にも言及する。最後に、明治期の伝統的な教育から大正デモクラシーの時代に新教育を実践して、臨床知と学問知を融合した人々の主張を掲げる(本書まえがきより)。

主要目次

<第1部> 人間教育の原理
  第1章 生の系譜
   §1 教育原理のルーツ
   §2 臨床を哲学する
  第2章 日本の幼児教育思想の系譜
   §1 国産の幼児教育原理への道程
   §2 大正・昭和期にみる就学前教育の原理
  第3章 精神の源流へのアプローチ
   §1 教育史を学ぶということ
   §2 幼児教育原理の限界
<第2部> 場所・空間・時間という原理の所在
  第1章 自己活動する内的衝動の発露と環境
   §1 幼児の探索行動とアフォーダンス
   §2 就学前教育とアフォーダンス
  第2章 原理を具現化する場所
   §1 場所(トポス)の論理
   §2 教育原理を姿形に現す臨床の知
   §3 不調和な場所(トポス)での実践
  第3章 経験という教育陶冶の内容
   §1 想起的記憶の誕生
   §2 現象が生起する構造
<第3部> 教育の実体
  第1章 自己と自己教育
   §1 意志の所在
   §2 意味の生成
  第2章 教育臨床への挑戦
   §1 教育実現へのアプローチ
   §2 教育実践の真髄