社会福祉とわたしたち

著者
一瀬早百合
版型・頁
A5判 304頁(2022/03/24)
ISBN
978-4-89347-386-8
価格
2,090 円(税込)
数 量

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概要

 日本の社会の現状をどのように考えていますか。若者の自死の増加、少子化、子どもの貧困、児童虐待の増加、経済的格差とそれに大きく影響を受ける未婚化や子どもの進学率など、様々な問題が山積しています。一言で表現すれば「人間の尊厳」を大切にしていない社会といえるでしょう。社会福祉は、施策や制度、福祉サービスの総体と捉えられることが多いですが、それらを用いて「人間の尊厳」を尊重する、また人権や自己実現を保障する実践です。

 このテキストのコンセプトはソーシャルワークの理念である人間尊重や社会正義です。社会福祉の実践には必ず理念や価値が包含されていなければなりません。第2章の社会福祉の理念でソーシャルワークの価値を体系的に論じ、続く第3章以降においても社会福祉の領域や対象に応じて重要とされる価値や理念についてふれています。

 また、「社会福祉とわたしたち」というタイトルには、社会福祉と自分自身の生活を結びつけて考えながら、学びを深める期待が込められています。わたしたちも社会福祉の恩恵を受けながら暮らしていることを実感してください。社会福祉はわたしたちの尊厳や人権を守るために存在しているのです。

 本書は、保育士養成課程の科目「社会福祉」を学ぶための教科書で、2016年に出版された『社会福祉と私たちの生活』(小林育子・一瀬早百合共著)を基盤にしながら大幅に改訂したものです。基本的には、厚生労働省の示したシラバスに則って構成されています。しかしそれに留まらず、社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士を目指す人にも是非手に取ってほしいと思います。これら4つの国家資格は社会福祉の専門職として共通点があるからです。その共通点とは本書のコンセプトであるソーシャルワークの価値に他なりません。

 本書の特徴は、コラムを多く取り入れ、現代的なトピックから社会福祉を考えている点です。新聞記事はもとより、新たな試みや問題解決のヒントを社会福祉領域以外の実践家や思想家の声を紹介しています。NPO法人ピープルデザイン研究所や内田樹氏の言葉から「社会福祉」は多くのことを学ばせてもらうことができます。「社会福祉」という名称はすでに時代遅れで、すべての人々が憧れる、手に入れたいと思う新たな概念を創出する必要がありそうです。

本書が多様な子どもや家族、障害のある人々や高齢者、貧困の状態やLGBTQなどの少数派を含めたすべての人々の尊厳を尊重する援助者の養成に役立つことを願っています。また、この本を手にする学生や教員や実践者等すべての人が「社会福祉」を学ぶことにより、少しでもラクに生きられることを望んでいます。
(本書「はじめに」より抜粋)

主要目次

第1章 社会福祉とわたしたち
§1. わたしたちのライフコースと社会福祉
§2. わたしたちの生活
§3. 人生のライフサイクル

第2章 社会福祉の理念と歴史的変遷
§1. 社会福祉の歴史的変遷
§2. 社会福祉の理念と概要

第3章 現代社会の生活問題と社会福祉
§1. 現代社会の生活問題
コラム インターネットによる発信を考える
§2. 社会福祉の現代的課題
コラム 世界の同性婚の状況

第4章 社会福祉行政と実施体系
§1. 社会福祉の行政機関・組織
§2. 社会福祉施設の種類
コラム たらい回しにならないために:ワンストップサービスとは

第5章 社会福祉と社会保障の制度
§1. 社会福祉と社会保障
§2. 狭義の社会福祉制度
§3. 社会保障制度の概要
§4. 社会政策の概要
§5. 公共一般施策
§6. 公的扶助(低所得者の福祉)
コラム 生活保護に対する世間の眼差し
§7. 関連制度の概要
コラム 児童虐待の背後には、母親の自殺がある

第6章 社会福祉の専門職
§1. 社会福祉の専門職とその資格要件
§2. 社会福祉専門職の倫理
コラム 施設内虐待が起こる背景を考えよう

第7章 共生社会の実現と障害者施策
§1. 共生社会の理念
§2. 障害児・者福祉の展開
コラム 新型出生前診断のこれから
コラム 津久井やまゆり園事件」からわたしたちが考え続けなければいけないこと
コラム ピープルデザインとは〜ユニバーサルデザインを超えて

第8章 子ども家庭福祉と社会福祉
§1. 子ども家庭福祉とは
§2. 子どもと人権
§3. 子ども家庭福祉の制度と支援
コラム 国際結婚の増加とハーグ条約

第9章 少子高齢化社会と子育て支援
§1. 少子化政策から子ども・子育て支援へ
コラム 子育てする父親にパタハラという壁?
§2. 高齢者福祉の展開
コラム 少子高齢社会の財源は?

第10章 社会福祉における相談援助
§1. 相談援助における理論と原則
§2. 相談援助の意義と機能
§3. 相談援助の対象と過程
§4. 相談援助の方法と技術
コラム 現場のソーシャルワーカーの葛藤

第11章 社会福祉における利用者保護にかかわるしくみ
§1. 権利擁護の必要性 ―憲法から考える基本的権利とは
§2. 情報提供と第三者評価
§3. 利用者の権利擁護と苦情解決
コラム「モンスターペアレント」や「クレーム?」を理解する

第12章 社会福祉の動向と課題
§1. 在宅福祉・地域福祉の推進
§2. 多職種間の連携とネットワーク
コラム こども食堂のこれから
§3. 諸外国の動向
コラム 子ども家庭庁、子どもオンブッドとは
コラム 日本におけるネウボラの取り組み
§4. ポストコロナの社会福祉 ―人間の尊厳が守られる社会へ