幼児教育知の探究3 幼年教育者の問い
- 著者
- 青木久子・浅井幸子 著
- 版型・頁
- A5判 286頁 上製 (2007/08/29)
- ISBN
- 978-4-89347-103-1
- 価格
- 2,750 円(税込)
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概要
幼年期の教育にかかわろうとする人々には、一人一人それなりの動機がある。自分の人生において幼年期がかけがえのないものだったから、逆に苦しく淋しいものだったからと自らの幼児期と重ねる者、生活苦にあえぐ人々や放置された子どもを見るに忍びなく手を差しのべたとする社会的な問題意識に立つ者、あるいは子どもが好きで小学校の先生では無理でも幼稚園や保育所の先生にならなれるかも知れないといった職業適性への問いから選択する者など、様々である。
動機は何であれ、幼児教育・保育の道をめざして、何十年、そこに身を置いて、内からわき出る問いと向き合ってきた人々は、社会の矛盾と、自己の矛盾を調整しつつ、実践に勤しんでいる。しかし、就学前教育は、“生活による教育”という具体的で明証性のある理念や方法を掲げるだけに専門職としての認識が形成されにくく、幼児期の教育を担う者は小学校以上の教育者と同列には認知されない側面をもつ。生活ほどすべての知の源泉であるところのものはないが、近代学校制度は総合的・統一的な生活知より科学的な学問知に重きを置いて、制度への依存状態を生みだしているため、生活の価値を見失いやすいのである。また、乳母や童が担った子守や、育児・介護といった非生産的な活動が脇に追いやられてきた歴史とも重なり、専門職として認知されにくいのである。
2000年度から始まった教員養成機関のカリキュラムに設けられた「教職概論」は、服務、研修等の法的根拠や幼児教育の概論として取り扱われることが多く、諸々の『保育者論』にみる“教師はかくあるべし”といった教師論・保育者論が中心になっている。それはまた、履修選択のオリエンテ-ションや教育実習の心得などと重なる内容が多く、規範的意識を強化された人間の育成に貢献してきた。戦後の保育界が経済の安定成長に支えられ、“かくあるべし”という保育者を求めてきたことも関係するだろう。また、幼稚園教員免許・保育士資格保有者の8割程度が短期大学・専門学校等の2年間で幼稚園教員免許と保育士資格を取得しているシステムの中では、問題意識をもった研究的実践者を育成するより、従順な規範的実践者の育成の方が急務であり需要にかなっていたという現実もある。
知の伝承が希薄化し、規範意識や判断力、自己選択、自己決定が弱いと言われる昨今では、“かくあるべし”を学ぶことも必要であろう。しかし、社会構造が大きく変革していく時代の教育者としては“かくありたい”という自分を形成することも必要である。幼保一元化へと保育制度が動き出している今日、未来の日本の保育を構想できる力量、あるいは実践研究によって問題解決を図り、未来を切り開く力が求められている(本書まえがきより)。
主要目次
<第1部> 幼児教育者の世界
第1章 幼年教育の課題継承
§1 幼稚園教師への道
§2 国の教育課程基準と教育のロ-カル性
第2章 家庭教育と学校教育
§1.教師としての母が抱えた課題
第3章 女性教師の経験
§1 母親と教師のあいだ
§2 平田のぶ ―子どもとの愛の関係を求めて―
§3 池田小菊 ―「教室の家庭化」の構想―
§4 平野婦美子 ―子どもに応えるー
§5 島小学校の女性教師 ―「授業の専門家」としての教師―
<第2部> 実践過程にみる問いの所在
第1章 就学前教育の意義と醍醐味
第2章 就学前教育の構造化と教育内容の模索
第3章 教師のライフワ-ク
<第3部> 幼年教育者の現代的課題
第1章 女性たちと子どもたち
§1 養育と教育の現在
§2 フェミニジアと保育の文化
第2章 幼年教育における教育とケア
§1 教育とケアの統合
§2 ケアとジェンダー
§3 スクールホームの構想
第3章 保育の専門性
§1 専門性の困難
§2 専門化の方途
§3 ケアリングの専門家