子ども学 第5号

著者
白梅学園大学子ども学研究所「子ども学」編集委員会 編集
版型・頁
B5判 268頁(2017/05/26)
ISBN
978-4-89347-184-0
価格
1,980 円(税込)
数 量

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概要

『子ども学』第5号発刊!

「子ども学」という学問は、必ずしも人口に膾炙しているわけではない。むしろ、発生・発展しつつある学問といってよい。児童文学者であり評論家の佐野美津男氏が、『子ども学』を著したのが1980年、海鳴社から『新しい子ども学』(小林登氏ら編)全3巻が出版されたのが1986年だから、1980年代あたりからわが国では、子ども学という学問への期待があちこちから表明されてきたといえるだろう。今世紀に入ってからは、大学に子ども学部、子ども学科、子ども学研究所などが相次いで立ちあがっていることは周知のことだ。
今、「あちこちから表明されてきた」と書いたが、これは子ども学という学問が、子どもという存在を研究対象にしている点は共通していても、それを学問として研究し体系化したいと考えている分野、関心がさまざまだからだ。アメリカなどでは、その点を整理して、われわれが子ども学といっている学問をChild ScienceおよびChild StudyそしてChildhood Studyと分けているようだ。
Child Scienceは、子どもを近代科学的な手法で研究する分野で、今号では社会情動的スキルについての分析をおこなっている2名の方の論文がその例にあたろう。心理学、小児科学、脳科学、新生児行動学、小児生理学、小児精神医学、等々の分野で、子どもを研究対象としている人たちによる研究である。これらの諸研究で得た知見を体系化しようとするのが子ども学だ。
Childhood Studyは、そもそも子ども期、人生のある段階である子ども時代をどうした時期と考えるのか、その定義や扱い方の相違はどのような文化差、社会慣行の差とつながっているのか、人間にそうした時期があることの深い意味は何か等々、子ども期の意味をめぐる研究の総体を指している。今号の特集2で、子どもという思想を分析している論考はこうした研究にあたろう。子ども人類学、子ども人間学などの研究者にはこうした研究をしている人が多い。
そしてChild Studyは、子どもが社会の中でどう実際に扱われているのか、子どもの世界に起こっていることの深層は何か、子どもを意識してつくられている文化や子ども自身がつくり出している文化とは何か、それらは子どもの人間形成にどうかかわっているか等々の研究を指している。子どもの貧困問題や学校でおこっている学力問題、いじめ問題などを窓口にしつつ、こうした研究をおこなう場合が多い。
子ども学は、こうした研究を通じて、人間という存在そのものの分析、人間という存在への社会の価値づけのメカニズムの分析、そして子ども自身に生じている問題とその解決への道筋の探索などをおこなっているのだと思う。広義の人間学である。その未来に期待していただきたい。
(編集委員顧問 白梅学園大学・短期大学学長 汐見稔幸「はじめに」より)

主要目次

<特集1>幼児教育における社会情動的スキルの育ち
・幼児教育における社会情動的スキル …内田千春
・幼児期の社会情動的スキルを育む保育者の「臨床の知」 …古賀松香

<特集2>「子ども」思想の多様な展開
・〈こども〉文化の進化史
  ─生態系のなかのヒトの成熟と生命の世代継承 …宮澤康人
・インファンス再考 ─『エミール』を読み直す─ …森田伸子
・子どもという多様体のための覚書
  ─人間/非人間の境界線にかかわる18世紀フランス思想の試み─ …矢野智司

<特集3>子どもと絵本
・絵本の歴史と現在 …野上 暁
・暦から絵本へ
  ─「大きな作者」から絵本作家が継承してきたものの考察─ …村瀬 学
・絵本を学ぶ・絵本から学ぶということ
  ─読む身体と聞く身体の響きあいを中心に─ …村中李衣

<子ども学 投稿論文>
〈原著論文〉
・チンパンジーの遊びの多様性と環境
  ─ヒトの遊び環境を考えるために─ …松阪崇久
・実践知としての保育者の「見守る」行為を解読する試み
  ─当事者の語りに着目して─ …上田敏丈,中坪史典,吉田貴子,土谷香菜子
〈研究ノート〉
・ポルトマン(Portmann)以降の諸知見に基づく子ども観「断続授抱性」の提唱
  ─子ども理解と育児・保育の新たな視点─ …金子龍太郎