遊び保育論

著者
小川博久 著
版型・頁
A5判 260頁 上製 (2010/05/21)
ISBN
978-4-89347-140-6
価格
2,750 円(税込)
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概要

今、幼児教育の研究者として、遊びの重要性を保育者になる人にわかってもらおうとこの書を書いている。しかし、とてもむずかしい。あんなに楽しかったことを、そしてまたこの遊びの大切なことを、保育者の人々に伝えることがとてもむずかしい。しかも、遊びの楽しさを同時に伝えながらわかってもらうのはとてもむずかしい。論より証拠である。遊びの楽しさを見てもらえばいいのだが、しかしそれでは十分ではない。この書を読む保育者の一人一人の方々が幼児一人一人にその遊びの楽しさを届けなければならないからだ。
とはいえ、遊びの楽しさが大人になったとき、単にノスタルジアとして残るだけであったら、なぜそれほど苦労して遊びの楽しさや遊びを強調することがあるのだろうか。
私は、遊びは将来の学びにとって実に重要な意味をもっていると信じている。幼児は誕生直後はまさに無力に等しい。親の庇護がなければ1日たりとも生きられない。しかし、1歳を越えると、様子が一変する。先日、電車で1歳4か月の男の子(母親に直接聞いた)が母親に抱かれて私の席のそばに乗ってきた。そのとき幼児は母親に抱かれて心地よくじっとしている様子はまったくなかった。窓の外や車中の人々に常に関心を向け、動き出そうとする。まなざしと行動は、探索あるのみという感じである。未知の世界に歩み出し、目と触覚ですべてを知ろうとする。……(中略)……現在の学校教育は、若い世代に伝えなければならない情報をできるだけたくさん、しかも、効率的にと考えることにやっきになり、幼児や子どもの学ぶ意欲を育てることを二の次にしてしまっている。遊びの体験の楽しさこそ、学習意欲を育てるのである。だからこそ、遊びの楽しさを伝えるという難題を引き受けているのである。幼小関連も学ぶ意欲をどう幼から小へと伝えるかがもっとも重要な課題なのである。
遊びは、大正期、子どもの童謡運動とともに重視されるようになった。それは子どもの文化(子どもたちがつくり出す文化)として重視されてきた。ちょうど、同じ時期に倉橋惣三によって幼児教育における遊びの重要性が指摘され、日本の幼児教育思想において、倉橋惣三の思想の系譜は津守真らによって継承され現在に至っている。この伝統は日本の幼児教育思想において大変重視すべき筋道である。しかし、最近の路上遊びの消滅の中で、幼児教育の中でも、その影響力を弱めつつある。筆者のこの著は、そうした先輩の系譜を継承し、発展させたいための試論である(本書「はじめに」より)。

主要目次

第1章 遊び保育の重要性
  1.保育の危機を見つめて
  2.保育という営みとは
  3.大人にとって「子ども」の区別を成り立たせているもの
  4.情報を伝達・教授する者としての大人とそれを受容する者としての子ども
  5.子ども期の独自性を失いつつある子どもたち
  6.われわれ人類は遊び期を失っても大丈夫だろうか
第2章 遊び不在の時代における遊び再生への課題
  1.遊びの定義を考える
  2.伝承遊びにおける子ども集団の仕組み
  3.学校教育における教えるというシステムがもたらしたもの
  4.学びたいという動機を生み出すものとしての遊び
  5.「遊び保育論」を構成する前提について
  6.遊び保育における保育者のモデルとしての役割
  7.遊び保育論展開の場としての教育制度
  8.保育者と小学校教師の教育実践に関する制度上の共通の規定と相違点
  9.幼児教育の理念と現実
  10.幼稚園教育要領における子ども観の問題点
第3章 遊び保育論の構成の基盤
  1.幼児教育制度の中での遊びの再生への挑戦
  2.保育者の存在感と幼児との関係
  3.子どもの遊びを誘発する環境
  4.つくる活動のモデルとしての保育者
  5.幼児全員が遊び環境の構成員であること
第4章 遊び保育論の具体的展開(Ⅰ)
  1.コーナーの意味と設定の意義
  2.保育室の保育環境における各コーナーの特色
  3.ままごとコーナーにおける人とモノとスペースの関係とそこで成立する遊び
  4.積み木コーナーにおける人とモノとスペースの関係
  5.ブロックコーナーの遊び
  6.コーナー以外の室内遊び
  7.室内遊びにおける逸脱する幼児への対応
  8.室内遊びに対する保育者の役割
  9.室内遊びから外遊びへの媒介としてのお片づけ
第5章 遊び保育論の具体的展開(Ⅱ)
  1.室内遊びから外遊びへ
  2.現代の幼児と園庭との出会い
  3.幼児の外遊びと取り組むために
  4.集団遊びとは何か
  5.園庭の環境と幼児の遊びの展開
  6.集団遊びの環境構成と遊び方略
第6章 遊び保育における教育課程の考え方とつくり方
  1.生活の流れに基づいたカリキュラム構成
  2.本来の行事を節目とする年間指導計画
  3.短期の指導計画をどうつくるか
  4.遊び保育の展開に必要な週案・日案の条件は何か
  5.指導案における「ねらい」のとらえ方
第7章 遊び保育に取り組む保育者の役割
  1.大人と子どもとの共生感の危機
  2.共生感のルーツはどこにあるか
  3.文明の発達と共生感の喪失
  4.遊びに共感しつつ、遊びを演出し、構成する能力の形成
  5.共感する感性と反省する知性
  6.幼児理解について