子どもを取り巻く環境の変化が著しい。それは、子どもが子どもとして十分に生き切ることが、ますます容易ではない社会になってきていることの証であると思う。
ところで、「子どもの最善の利益」とは何だろうか。先が見えにくく、多様さに価値をおく社会におけるそれを、一言で表現すると、「今を十分に生きること、そして、その過程のなかで望ましい未来をつくり出す力を獲得すること」と言える。そして、この「子どもの最善の利益」の実現を考えるのは、子どもを取り巻く大人の責任である。そして、大人はその責任をとる覚悟が必要である。
本書が対象とする読者である子どもとの生活の第一線で奮闘する保育者や、まさにこれからその現場に身を投じようとする保育を学ぶ学生は、「子どもの最善の利益」とは何かを日々の具体的な生活のなかで考え、実践し、子どもの生活や育ちに進んで責任をもとうとする人たちである。本書は、このような人たちと一緒に、乳児保育の基本を具体的に考えていくことをねらいとしている。
(中略)
乳児の生活の仕方は多様化している。乳児との多様な生活において、その生活にかかわる大人すべてがその世話をすることになる。乳児の生活において、その生活を共にする大人が一人の人間として出会わなければ、乳児はその人生を肯定的にとらえるとともにその主人公であることを獲得することも困難を極めると考えられる。本書においては、保育者のありようや、乳児の生活の環境(施設内だけでなく、家庭、地域、社会など)を含めて「乳児の最善の利益」を保証するということは、具体的にどのような生活をすることなのかを考えていく。一緒に考えることを願う。
(本書まえがきより)
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