2008年保育学会賞受賞!!
本著の刊行は、おとながこどもの傍らに在ることの意味を問うことを目的にしている。私は、保育現場に臨むという取り組みに、長い年月を費やしてきた。その大半は、巡回の形で続けてきた保育相談である。保育現場の状況を丁寧に見つめ、状況を語り合うことに努めてきた。この園のこの子の育ちや育ての在りようを通して、保育実践の意味深さを考え続けてきて改めて確認することになった。その間、私には保育現場の実践を通して、保育者の存在がいかにこどもの生きる現場を支えつつ傍らにあるおとなとして大事なことか、そしてこども同士が共に生きることのいかに大事なことかを感じさせられてきた。私は、このことを、保育実践の臨床的な特質と実感し、その視点と在り方を総称して「保育臨床」と名付けて、以後今日まで保育の現場に通い、現場に立ち上がる相談事に身を入れてきた。それが当事者である保育者の少しでも支えになることであれば、という思いからである。
構成は、自分の専門的な関心を「保育臨床」ということに固めてくる経緯について、まず福祉現場の仕事を通して着想を得るまでを、「第1章 発想の航跡」で述べるところから始めている。そこから、こどもの生きる現場としてもつ保育現場の意味深さを、状況として語ったのが「第2章 日常を支える実践」及び「第3章 こどもの居場所」である。巡回式の保育者相談の折りに繰り返し実感させられることは、保育現場の日常が、決して“単なる出来事”の繰り返しではなく、いかに意味深い出来事の連続であるか、ということだった。そこから、「第4章 発達を捉える視点」でこどもの育ちに言及し、そこから持論である「保育臨床」を軸に、「第5章 保育者の専門性としての「臨床」」、「第6章 巡回保育相談の現状と課題」、「第7章 保育カンファレンス」、「第8章 保育者支援」と、順に論考を試みている。終章にあたる「第9章 澪標(身を尽くし)」として、保育者のこと、そして保育現場に臨む私自身の在りようについて主題と絡めて述べている。(序章より)
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