今日、子どものSOSがなかなか大人に届かない。大人もまた、子どもの心に自分たちの言葉が届かない苦悩を抱えている。人々は情報の渦の中で混沌として状況が見えない不安にかられ、子育てが苦しい時代を生きている。保育は情意面の発達が優位な幼児期の特性を踏まえ、一人一人の理解を根底においている。その中で幼児が自主的に取り組み、相互に育ちあうように環境を構成していくわけだが、激変する社会環境は、子どもや親の意識を大きく変えていて、何が発達の壁となっているのか、何が保育の本質なのかがなかなか見えない。
こうした折、教育職員免許法の一部が改正され、必修科目として『幼児理解の理論及び方法と教育相談(カウンセリングに関する基礎的な知識を含む)の理論及び方法』の学習内容が新たに加えられた。幼児を理解し、確かな自己を形成する環境を用意することが、21世紀の教育の出発点として再確認されたといえよう。
本書では学生のみなさんが実践事例や文学作品などを通して、子どもと自分への理解を深め、ロールプレイングや記録分析などの演習を通して子どもとかかわる心や身体の動き、他者の気持ちなどを想像する力を培っていただき、カウンセリングの基礎知識が子どもや保護者との関係づくりに機能するよう願って、以下のようにその内容を構成した。 序章では、状況を生きる子どもと保育について考える。1章では、「わたし」について興味深い切り込みをしている。2章では、カウンセリングマインドと保育臨床の視点、保育臨床の場が立ち上がるとはどういうことかについて理論的におさえてある。3章は、みなさんが保育の場に出て子どもを理解するための手がかりを得る方法を中心にまとめている。4章は、保育者の基本的な役割について述べている。 5章から7章までは、いじめやチックなど集団状況での関係の歪みの表れ、親と子、保育者の絆が結ばれていくまでの過程に生じるさまざまな問題、障害児や外国人などのマイノリティの子どもの違いの理解と関係のつくり方などを中心として、親も子どもも保育者もわたしという存在を取り戻す過程を実践事例をもとにまとめてある。おわりにでは、カウンセリングマインドは知っているだけでなく関係づくりに生きて働くようにするためのものであり、みなさんの想像力を豊かにするトレーニングの視点が提供されている。(本書「まえがき」より抜粋)
|