萌文書林

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幼児教育知の探究1 ナラティヴとしての保育学

著者
磯部裕子・山内紀幸 著
版型・頁
A5判/252頁/上製(2007/05/18)
ISBN
978-4-89347-101-7
税込価格
2,700円(本体2,500円+税)

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概要

「ナラティブとしての保育学」というのは、なにか特定の研究方法に従わなければならないとか、研究対象をある種のものに限定しているという意味ではない。保育になんらかのかかわりがあるのであれば、当然それは、「保育学」なのであるし、従来の「保育学」もまた、ひとつの「保育学」であることには違いない。しかし、「ナラティヴとして」を付けたのには二つの思いがある。
一つ目は、保育の「アクチュアリティ」を新しい言葉や記号で表現する勇気を持ち続けたいということである。それは、現実を言語化・記号化したものは絶えず陳腐化していく宿命を帯びているという自覚をもちながらも、あえて語るための言語を持つことに挑み続けるということである。自らの提起した物語も含めて、既存の保育の語りが、差異化されたり、更新されたりすることを積極的に喜んでいきたい。「保育を語るにはこの言葉が唯一である」と思った瞬間、物語は固定化され、形骸化していくのであるから。保育にかかかわる者は、それをもっとも嫌う立場にたちたい。
二つ目は、「ナラティブとしての保育学」は、自己言及する権威型学問ではなく、保育の語り直しに寄与し、さらに保育者が新しい語りを生みだしていけるような円環型学問であってほしいということである。本書についても、筆者は保育者との語り合いの中で、多くの物語を完成させることができた。まだ荒削りだった本書の内容の一部を、研修会等の様々な機会に現場の保育者に題材として提供し、「この言葉は難しくてピンときませんでした」などと指摘してもらった。いわば、本書は現場の先生たちとの語り合いによる共同執筆ともいえる箇所がいくつもある。「保育のアクチュアリティ」の言語化・記号化が、よくあるような研究者の自己満足のためではなく、保育者や保育を目指す学生の語り直しの言語となっていくようになれば、これほどエキサイティングなことはない。保育現場の各場所で、大学のゼミの各場所で、語りの言葉として機能してはじめて、「ナラティヴとしての」保育学となるのである。新たに語り直す言葉を読者がもつことを通じてのみ、「ナラティヴとしての保育学」の円環運動は成立するのである。保育を語る言葉に溢れ、語る場所が保障される、そんな保育の養成の場、保育の実践の場になることを願っている。

本書は、3部構成となっており、第1部は子どもの物語を、第2部は保育の物語を、それぞれの視点で物語ることを試みた。そして第3部は、物語るための保育学として、物語ることの困難と意味を整理した。本書の中で、前述したようなわれわれの思いが反映された語りが実現していないとしたら、それは偏にわれわれの力不足によるものである。是非とも読者の皆様の忌憚のない批判的な語りを聞かせていただき、それによって、われわれもまた新たな語りを生みだしていきたいと思う(本書まえがきより)。

もくじ

<序 章> 保育という一つひとつの物語「生活世界」を語ることのアポリア
<第1部> 子どもの物語
  第1章 「保育」という営みの始まり:なぜ乳幼児までを<教育>するのか
   §1 「子ども」の発見
   §2 乳幼児期の子どもをも教育する―幼稚園の誕生―
   §3 幼児を対象とする教育の特殊性
  第2章 教育思想家たちの子ども中心主義
      ルソー・フレーベル・モンテッソーリの対談
   §1 3人の教育思想家のプロフィール
   §2 それぞれの事情
   §3 それぞれの「子ども中心主義」
   §4 テーマ別討論
  第3章 世界の子育て:ところかわれば育児方法いろいろ
   §1 はじめに
   §2 産湯を使わせる使わせない
   §3 寝かし方いろいろ
   §4 しつけ方いろいろ
   §5 かわいがり方いろいろ
   §6 食べ方・飲み方いろいろ
   §7 育てる人いろいろ
   §8 おわりに
<第2部> 保育の物語
  第1章 「家族」と「学校」、そして「幼稚園」の誕生
      ―システム化される子育ての始まり―
   §1 「近代家族」における母親の役割
   §2 「学校」の誕生による家族の教育機能の変化
   §3 わが国における「幼稚園」の誕生
   §4 保育者に求められた母親の物語
  第2章 保育文化の生成
   §1 子育ての思想と文化:しつけと教育の物語
   §2 しつけから教育へ―教育内容が計画される意味―
   §3 わが国の保育文化の現在
  第3章 これからの保育物語の生成へ
   §1 世界の幼児教育の動向―OECDの調査から―
   §2 わが国の幼児教育の現状
   §3 保育における学びへの問い
<第3部> 物語るための保育学
  第1章 自己言及する保育学 啓発からナラティヴへ
   §1 「保育学とは何か」に答えることはできるか
   §2 保育学はいかにして維持されているのか
   §3 保育学の自己言及の運動
   §4 保育の「語り」と「物語」
  第2章 保育の語りの創造 保育の「いま・ここ」を切り取る概念
   §1 なぜ保育の現実は語りにくいのか
   §2 保育の「いま・ここ」を切り取る概念
  第3章 保育行為の臨床哲学 ユウマくんの「いま・ここ」
   §1 ユウマくんのエピソード
   §2 私と他者の「あいだ」を読み解く
   §3 社会文脈実践としての保育行為
  第4章 保育ジャーゴンの研究 社会文脈実践家としての保育者
   §1 ジャーゴンとは
   §2 二つの保育ジャーゴン
   §3 保育実践ジャーゴン
   §4 保育指導案ジャーゴン
  第5章 「学びの評価言語」試論 「保育指導案ジャーゴン」の解体
   §1 保育における「学びの評価言語の不在」
   §2 「学びの評価言語」はつくられるか

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